2013年7月、アマゾンは初めて日本国内市場の売上げを発表しました。
その額7,300億円。
業界は騒然となりました。
というのも、トップの楽天1兆3千億円(流通総額。手数料総額としての売上げは2,858億円)の次、2番目にアマゾンが大きいことが白日の下にさらけ出されてしまったからです。
「うすうすは感じていたけど、やっぱりな…」
が業界のつぶやきです。
もっとも、この金額は正確ではありません。
アマゾンはマーケットプレイスという楽天のような「売る店はアマゾンではないけど、出店業者からマージンを取る」コーナーもありますから、7,300億円のすべてが流通総額ではないからです。
それを勘案すると、アマゾンの流通総額は7,300億円ではなく、1兆1千億円だと主張する試算結果もあります。
いずれにしても、アマゾンが日本で1位または2位の巨大な一角を占めたことが、通販業界が衝撃を受けた理由です。
私の友人です。ちなみに、男性です。
そこにバイトのサキちゃんがやってきました。
「ううむ…」と絶句する友人。
「はい、勝負あり(笑)」と私。
買物に対する価値観の違いで楽天とアマゾンは性格が違います。
買物を楽しもうとする人たち(女性に多い傾向です)は楽天派、目的のものを時間をかけずに手に入れたいという人たち(男性に多い傾向です)はアマゾン派。
さらに言えば、アマゾンは規格を重視する人たち向けのサイト作りになっています。
例えば、この時期に検索キーワードが多い扇風機を比較してみます。
「楽天で一番売れた」と喧伝している「±0(プラスマイナスゼロ)扇風機 リビングファン XQS-V110 スタンドファン サーキュレーター」をピックアップしてみました。
まずは、商品名から違います。
●アマゾン
±0 プラスマイナスゼロ Stand Fan リビングファン XQS-V110
●楽天
±0(プラスマイナスゼロ)扇風機 リビングファン XQS-V110 スタンドファン サーキュレーター
アマゾンは正式名称なのでしょう。素っ気ないネーミングです。
一方の楽天では「扇風機」「スタンドファン」「サーキュレーター」と3つのキーワードが追加されています。
楽天では扇風機に詳しくない人でも一目でわかるように「扇風機」の単語が追加されています。
「スタンドファン」はアマゾンでは英語、楽天ではカタカナです。日本人は英語を見ると単なるデザインにしか見えない人が多いので、パッケージデザインでも英語は避けるように私はアドバイスをします。従って、楽天のカタカナはメカに詳しくない人にもやさしい配慮です。
楽天の「サーキュレーター」の追加は商品用途を拡大して伝えています。
サイトデザインは画像を見てください。
画面を縮小して何枚か並べるだけで、アマゾンはすっきり、楽天はカラフルなのが一目で分かります。
スクロールの量も違います。
アマゾンは4.5回のスクロールで商品ページの最後までたどり着きます。
楽天は写真が大きいせいもありますが、17回もスクロールしないと注文と価格のコーナーにたどり着きません。
そして、情報の順番がアマゾンと楽天の最も大きな差です。
アマゾンは商品画面をクリックすると最初に商品名と価格、商品画像が現れ、次に「商品の仕様(商品スペック)」「製品の特徴」が出てきます。
が商品名などの次に目に入る作りです。
一方の楽天の商品ページをクリックすると目に飛び込んで来るのは
なんと、商品名すら出てきません。
4枚目の画像でようやく商品名と扇風機であることがかわる画像が出てきます。
その次も楽天はアマゾンと違います。
楽天ではこんなコピーが目に飛び込んできます。
アマゾンにはありません。
楽天はその後、延々とベネフィットや規格がないまぜとなって、なぜこの商品がいいのか、どこがいいのかを詳しく説明します。
ジャパネットたかたの映像が文字と写真になっているようです。
20行前の私の文章を思い出してください。
アマゾンでは
が最初に表示される商品解説なのです。
これは過去記事「プロダクトコーン理論」そのままの違いです。
アマゾンは規格で商品の善し悪しを判断するイノベーター向け、楽天はベネフィットで説得されるアーリーアダプタ向けの通販サイト。
トリアという美容家電(もちろん、女性向けです)をアマゾン式のページから楽天式のページにした途端、売上げが2倍近くになった事例もあります。
情報の内容はまったく同じなのに、です。
さて、アマゾンに関する様々なサイトやニュースを見ていると、このように「楽天 vs アマゾン」という切り口の記事を多く見かけます。
同じネット通販企業ですから、当然と言えば当然です。
しかし、今回は視点をちょっと変えます。
アマゾン vs 家電量販店です、
ネット vs リアルです。
と怒らないでください。
他のブログ記事1本分くらいあるので、おまけということで、ご勘弁を。
さて、ネット vs リアルの視点はアマゾンが日本に登場した時からずっと議論されてきました。
アマゾン(ネット) vs 書店業(リアル)。
アマゾン(ネット) vs CDショップ(リアル)。
アマゾン(電子書籍) vs 出版業(リアル)。
だから、書籍、CDの次のアマゾンの柱、家電量販店にも、この図式でマーケティングを解説しようとする記事にしました。
今までもこの視点の記事はありました。
しかし、今回はある発言が引き金となって、本記事を書こうと思い立ったのです
それは、「ネット価格にも対抗します」ヤマダ電機宣言です。
詳しい話はさておいて、記事を進めましょう。
家電量販店が売り上げの減少に悩んでいます。
地デジやエコポイント効果はなくなり、かつてのパソコンやデジカメのような急成長を続ける家電も消滅し、青息吐息です。
約9.5兆円あった家電量販市場が8兆円に縮小してしまったのです。率にして16.5%。
10%以上縮小した市場や企業は構造に大きな問題を抱えている重傷のケースですが、家電市場が8.5兆円から7.5兆円と縮小してしまっているので、そのあおりを食らった格好です。
家電量販店の悲鳴は今回だけではありません。
家庭向けパソコン普及による成長が止まった時から、次の商材を探すまでいつもヒーヒー言っていました。
2000年前半はデジカメでしのぎ、後半は液晶テレビで息を吹き返し、最後はエコポイントとスマートフォンでしのいだのが彼らの実情です。
その結果、業界再編が進み、コジマやソフマップがビックカメラの軍門にくだり、ベスト電器はヤマダ電機に飲み込まれました。
現在の業界の構図は、ヤマダ電機が市場シェア約20%、1兆7千億円でトップ。2位のビックカメラは8千億円でほぼ半分の約10%。エディオン、ヨドバシカメラが7千億円で並んでいます。
問題の不振はヤマダ電機以下トップ4社の売上高が仲良く対前年比6%前後減少したからです。
そんな中、家電量販業界から「アマゾンの価格は、不当廉売には当たらないのか」という不満が上がりました。
ヤマダ電機の山田昇会長は今年7月、
とメディアに語ったとのこと。
この発言には呆れました。
低価格を武器に町の電気屋さんを潰してきたのは、家電量販店ではありませんか。
やった側がやられた側になっただけです。
それをいまさら批判するなんて虫が良すぎるというものです。
因果応報です。
もともと、流通業には低価格分野があり、価格を巡って歴史を繰り返してきました。
スーパーが価格を破壊し個人商店を潰す(主に食品と衣料)。
次にディスカウントストアが台頭。家電量販店、衣料専門量販店、ドン・キホーテや百円ショップもここに入ります。
それらとは別に通販業界が流通市場に参入し(主に下着や収納家具など)、ネット通販(最初は書籍だったのが現在は多分野)に至ったのでした。
それらの交代劇は流通業の構造的な変革です。
家電量販店は変革の波についていけなかっただけです。
家電量販店は勘違いをしてしまったようです。
自分たちが絶対無比の存在であるかのような傲慢な発言。
企業体質が中小企業のまま、不治の病である大企業病にかかってしまったようです。
このままでは、電気屋さんのように淘汰されて立ち行かなくなるだけでしょう。
…と思ったら、矢継ぎ早にヤマダ電機が次の一手を打ちました。
全役員14人の降格と、会長が社長に復帰。
ついに
と店頭ポスターで宣言。
これまではネットの価格を店員に見せても
と断られてきたのと対照的です。
と2月に副社長が宣言したことばを受けた対応策です。
家電量販店は「ショールーミング」と揶揄され、店頭で実物を見るものの、注文はアマゾンや楽天などのネット通販で行う生活者が増えてきたのも原因の一つです。
ただでさえネット通販に売上げを取られるだけでなく、ネット通販に協力してしまっている。もちろん、見返りはなし。店舗の維持費用と人件費がそっくりただ乗りされている。
怒るのも無理はありません。
ただ、こういった買い方は遙か昔にもありました。
私がパソコンを最初に買った昭和50年初期にも家電量販店で商品を物色し、実際に買うのは圧倒的に安い問屋というマニアも多かったものでした。
特に、照明器具はその傾向が強く、ヤマギワ電気の照明器具専門店の関係者はよくこぼしていたものです。
それを乗り越えてきたのが家電量販店のハズです。
さて、一方のアマゾンに話を移します。
そもそも、アマゾンは斜陽産業をビジネスの中心にしていました。
言い方が悪いですね。
マーケティングで言うところの成熟産業が彼らのビジネス源です。
アマゾンの最初の柱、書籍は縮小産業。次に手を伸ばしたCDも斜陽業界。
そして3番目の柱になった家電・AV機器も衰退しつつある業界です。
一般に言われる
といわれた成功要因は書籍、CDまでの話です。
さて、CDと書籍の2つめまでと今回の家電との大きな違いがもうひとつあります。
それは、「価格が大切な分野だ」ということです。
CDも書籍もアマゾンは品揃えの豊富さや、検索の容易さでユーザーに人気がありましたが、決して価格が安かったからではありませんでした。
アメリカでは書店最大手バーンズ&ノーブルと丁々発止の価格競争を繰り返してきたアマゾンですが、日本では「1,500円以上の注文で送料無料キャンペーン」くらいしか当初は低価格政策をしていませんでした。
送料を無料にしてようやく書店やCDショップと肩を並べることができただけです。価格に関する限り、アマゾンがリアル書店と比較して有利な点はありません。
書籍やCDが主役だった頃と違う、もう一つの要因があります。
それは、アマゾン自体が持つ安心感、ブランド力です。
通販の世界では安心感は重要な要素です。
生活者にとって、名前も聞いたことがない通販会社に注文するのは勇気がいることです。
事前に銀行に振り込むのでは、本当に商品が届くのかどうかわからない。もしかしたら、お金だけ懐に入れてバックれられるかも知れない。
代引きだから安心という訳にはいきません。
中国の通販会社に薄型テレビを注文したら、大きな板が送られてきただけという実例もあります。
また、iPadを注文したら、外箱の中身は石だったという泣ける話も伝わっています。
ほんのちょっとだけ、アマゾンの成功要因を付け加えます。
●オススメ商品を含めて、個人個人に合ったページが自動的に育成されること
●レビューを充実したこと
●アマゾンの商品をブログなどで広告すると手数料が入るシステムを作ったこと
これら3つは一般的にアマゾンの成功要因と言われていますし、私も賛同します。
ただ、これらは今では言われ続けているので、ここでは詳しく説明しません。
ここからはアマゾンの成功要因が家電量販店にどう影響したのかを見ていきます…と言いたいところですが…
あれれ、そうすると、冒頭のヤマダ電機の「アマゾンは不当廉売」主張がちょっと怪しくなってきます。
安値で勝負していた業態はネット通販の遙か昔から存在していました。
問屋販売もそうでしたし、アマゾンが家電に参入する前の激安ショップもヤマダ電機より安い価格で商品を売っていた。
アマゾンが家電に参入したところで、最安値とは言えない。
ヤマダ電機や家電量販店はそれのどこが気に入らないのでしょう。
もうひとつ、からくりがあります。
ヤマダ電機が「アマゾンは不当廉売だ」と騒ぎ始めたのはアマゾンの日本での売上げ額が初めて発表された直後でした。
その金額はというと7,300億円。ヤマダ電機の半分、いや、ヨドバシカメラ1社分の規模です。
PCボンバーのような小さな業者が最安値で低価格を売りにしたところで、痛くもかゆくもない。けれど、うすうすは感じていたものの、いきなり第2位の量販店と同じ規模の会社が登場したのですから、慌てるのは理解できます。
視点を変えてアマゾンから見ると、家電量販店はうらやましい存在です。
だって、家電量販店では実店舗があるので、実物を見て触って、その場で持ち帰ることができるのですから。
アマゾンには到底できない芸当です。
しかも、店員がいるのでいくらでも質問ができて、その場ですぐに回答が帰ってくる。アマゾンでメールのやりとりはできても、メールを書く、返事を待つことから比べたら、何倍も客の負担は少ない。
しかも、今回の「他社のインターネット価格にも対応」は、実は限定された価格です。
事前にネットで調べていたので知っていましたが、確認のためにヤマダに行ってみました。価格comに載っていた最安値を見せて交渉してみたのです。
結果は予想どおり
とけんもほろろの対応でした。
リアル店舗の強みを生かした例があります。
今年5月。私は自分のパソコンを新調するために秋葉原にパーツを一式買いに行きました。自作でイチから組み立てるためです。一式、約10万円の買い物です。
訪れたのは秋葉原の九十九(つくも)電機。ここは一度、倒産しましたが、根強い人気があるので復活した店です。
店にはCPU、メモリ、ハードディスク、キーボードがところせましと並んでいます。しかも、隣接する店と併せてパーツを扱うフロアが5つあります。
価格を安くすることは元来の家電量販店の存在理由のひとつですから、とても大切です。
また、家電量販店の社員と話をすると必ず出てくる
も一部当たっています。
だから、「ネット価格の安値に挑戦」は原点に戻る意味もあって、評価できる姿勢です。
でも、今まで見てきたように、客には価格一辺倒だけでない様々なニーズがあります。
いや、家電量販店はそうやって売上げを伸ばしてきたのではありませんか。