デフレの優等生と言われ続け、ユニクロと話題を二分したマクドナルド。
最近は元気がありません。
なにせ既存店売上げが連続13ヶ月も対前年比を割り込んだのですから、シャレになりません。原田社長の役員報酬もほぼ半減したと言われています。
原田社長は様々なメディアでインタビューに答え、不振の原因を自己分析していました。
曰く「家で食事をとる『中食・内食』に顧客を奪われたという外部要因もある。東日本大震災以降、家に早く帰る消費者が増えた」
曰く「2012年は夏に売り出した(高価格商品の)『世界のマック』シリーズが想定ほど売れなかったことや、秋から主力商品の『ビッグマック』や『チキンマックナゲット』の値引きセールをやめたことが影響している」
一番目の「『中食・内食』に顧客を奪われた」は説得力がありません。モスバーガーなどの他のチェーン店は既存店売り上げはむしろプラスです。
第一、いままで、居酒屋やファミレスが青息吐息だったデフレ期に一人気を吐いていたマクドナルドではありませんか。いまさら「外食不況」は原因だとは思えません。
もし、原田社長が真剣にそう信じているのなら、それこそ「お先、マクドナルドら」です。
二番目。「新製品が予想より売れなかった」は…あれ?
いやだなあ、もう、ちゃんと原因が分かってるじゃないですか。
マクドナルドは100円バーガーやクーポンを配りまくっているので、高価格帯の商品が売れなかったら、単に他の外食のように「値下げ損」です。そりゃ、うまく行くはずがない。
ということで結論。
以上。解散。
…て、久しぶりにギャグをカマしてみました(笑)
でも、この結論は真面目な話です。
13ヶ月連続売上げダウン期間での新製品は2012年7月の
でした。
「ル・グラン」(フランス)、「ゴールドマサラ」(インド)、「オージーデリ」(オーストラリア)の3商品を発売したのですが、泣かず飛ばず。
それでは、その前のヒット商品といえば
ほら、大ヒットして話題になった商品ばかりではないですか。
マクドナルドの新製品といえば、毎年期間限定の手堅い人気商品「グラコロ」や「月見バーガー」「チキンタツタ」があります。
それらの売上げに「プラス」してヒット商品があり、マクドナルド全体の売上げを押し上げていたのがいままでの成功の構造です。
そんな大ヒットが2012年はなかったのですから、売上げが下がるのは当然です。
普段のメルマガなら
「なぜヒット商品が出せないのか」
を続いて解説するのですが、今回はやりません。
正直マクドナルドは立派だと常々思っているからです。
だって、年1回といえども毎年ヒット商品を連発するのは大変なことなのは、商品開発の現場にいる私がよく知っています。
連発でヒット商品を出した原田社長の手腕はもっと評価されていいと私は思っています。
もっとも、外部から見ると緻密なマーケティング戦略で商品開発をしているようには見えません。試食調査などをしているのは知っていますが、どうにも動きに「マーケティング」の匂いがしないのです。
あ、いえいえ、いまのは忘れてください。ヒット商品が作れれば、マーケティングなんて必要ありません。
第一、私個人の根拠もない「匂い」なんて気にすることもありません。
さてさて、不振の原因がわかったからには、その後のことを考えてみるのも一興です。
第一、つい先日の6月10日の発表によると、既存店売上高が0.5%増加し14ヶ月ぶりに回復したとの報道がありました。ヒット商品が原因ではありませんが、値上げで一息ついた格好です。
そこで、今回の記事の視点をこんな風にしました。
です。
今回はいつもよりちょっと堅い文章です。マーケティングの視点を強めに出しました。
理由は「絶好の機会」だからです。
何が「絶好の機会」なのか。
のっけから今回の記事で一番大切なことをお話しします。
「強者の戦略」と呼ばれるトップ企業だけが許されるマーケティング戦略のお話です。
マクドナルドはハンバーガー市場で堂々の74.6%のシェアを占める独占企業です。
独禁法に引っかからないのが不思議なくらいに大きなシェア。他産業ではそうそうお目にかかるものではありません。
たばこや一時期の写真フィルムくらいしか例がないレアなケースです。
トップ企業の戦略はマーケティングの教科書にあまり載っていませんし、トップ企業のノウハウを持ったコンサルタントは多くありません。
なぜなら、1業種に20社あるとしたら、そのうちトップ企業は1社しかないので、ケーススタディが豊富ではないからです。
また、コンサルタントの仕事が20プロジェクトあるとしたら、確率的には1個しかトップ企業の仕事がないわけです。19プロジェクトは2位以下の戦略をベースとしたコンサルテーションです。
一方、私といえばコンサルタントになる前のメーカー時代は2社とも業界トップの企業でした。そのあたりは手慣れています。
マクドナルドというせっかく最良の素材があるのですから、「トップ企業の戦略とはなにか」の視点でマクドナルドの記事を書きたい。
それが「ちょうど良い機会」なのです。
まずは結論から言います。
トップ企業戦略と下位企業戦略、つまり「強者の戦略」と「弱者の戦略」との違いは下の表のとおりです。
戦略内容 | 強者の戦略 | 弱者の戦略 |
---|---|---|
●基本戦略 | ミート戦略 | 差別化戦略 |
●差別優位性 | 差別化より優位性 | 優位性より差別化 |
●ターゲット | イノベータから アーリーアダプタ |
イノベータ |
●市場内攻略 | 全セグメントで1位 | 一定セグメントで1位 |
●拡大 | 他市場へ殴り込み | 市場内シェア拡大 |
●地域 | 広域戦 | 局地戦 |
普通のマーケティング戦略で大切だと言われている「差別化」や「イノベータ理論」は、強者の戦略では必要ありません。いや、正確には必要ですが、「弱者の戦略(つまり、通常のマーケティング戦略)」ほど重視しなくても良いのです。
中でも、紙面の都合で今回取り上げるのは次の2つです。
マクドナルドはハンバーガー市場内での全セグメントで1位をとらないといけません。
「強者の戦略」とは基本的には「守りの戦略」です。従って、どうやって自社のシェアを守っていくのかが大切になる。
その最も重要な点が「あらゆるセグメントで1位」なのです。
なぜか。
どれかひとつのセグメントでも2位以下だと、小さなアリの穴でも堤防が決壊してしまうように総崩れになる可能性があるからです。逆な言い方をすれば、どれかひとつのセグメントでも1位の下位企業がいると、1位をテコにしてのし上がってくる可能性があるからです。
完膚なきまでに他社をたたきのめす。これが「強者の戦略」です。
しかし、これらのまだセグメントと呼べない小さな分野が大きく育つような事態になれば、話は違ってきます。
その「将来の芽」はマインドシェアと呼ばれるマーケティングの考え方で発見できます。
簡単に言えばこういうことです。
3番目の「現場の作業効率が悪化する」は説明するのにちょっと長くなります。
現場の作業効率は飲食業界では「オペレーション」と呼ばれます。
「オペレーション」とは簡単に言えば「従業員の手間」です。
例えば、ホテトフライは袋から原材料をかごに入れて、フライヤーで揚げるだけの手間にする。揚げる時間が作業する人によって変わらないように、時間が来たら自動的に調理を止める機械で管理する。
最後4番目。「従来の商品は健康でないのかと客に思われる」について説明します。
すべての商品を健康にする必要はまったくありません。
若い男性を中心に「食の健康には無関心」な層がたくさんいるわけですから、彼らをマクドナルドの顧客対象から外す必要などは毛頭ありません。
しかし、一方で、マクドナルドには母親と子供を中心とする根強い家族層が着いています。彼らは子供を守るためなら、何のためらいもなく他社に逃げてしまう人たちです。
健康意識の強いイノベータもいます。彼らは間違ってもマクドナルドには行きません。
前半のテーマで誌面をずいぶん使ってしまいました。
後半のテーマに移りましょう。
「トップ企業の戦略では、売上げを上げるのは他市場に殴り込みをかけること」でした。
ちょっと考えれば簡単なことです。
マクドナルドはすでにハンバーガー市場では75%のシェアを持っています。残りの25%を取ろうと、いくらがんばっても成果はたかが知れています。
それなら、マクドナルドがまだシェアを取れていない他市場を攻略した方が賢いというものです。
さて、マクドナルドの骨子はお話ししました。
この記事の最後の章として、基本戦略以外の細々とした点を上げて終わりにしましょう。
価格です。
今年5月から実施する値上げが懸念材料です。
ビッグマックは290〜320円から330〜360円になりました。
とうとうモスバーガーの320円より高くなってしまったのです。
マクドナルドのようなガリバー企業は価格決定権があります。
ガリバー企業やガリバーブランドが値上げをしても、売上げが落ちにくい現象のことです。だから、マクドナルドは価格を上げることができる。事実、今年5月の14ヶ月目の売上げ回復がそれを物語っています。
と友人。
いえいえ、そんな単純なものではありません。
キーワードは「イノベータ」です。
イノベータの特徴のひとつとして「自分で自由にカスタマイズ」する嗜好が強いことです。企業から提供される「セット」や「キット」ではなく、基本パーツを買ってオプションを自由に組み合わせるのは、ほとんどがイノベータです。