宇宙人とチョコレートの関係は…ありません
私の好きな映画の1つに「E.T.」があります。
友情物語に感動したり、きれいなシーンに見ほれたりした観客も多かったことでしょう。
この映画は、隠れた発見も楽しみの一つでした。
例えば、主人公の子どもが自宅のプレイルームで兄弟達と遊んでいた、モノポリーのようなボードゲームは、良く見るとドラクエの原形となったロールプレイング・ゲーム「ダンジョン&ドラゴンズ」でした。
もうひとつの発見は、E.T.を見つけたときに主人公の少年が誘導しようとして、彼が地面に置くのがm&m’sのような粒チョコだったことです。実はこのチョコレート、良く見るとチョコの上に「m」マークがありません。アメリカで第2位の粒チョコであるハーシーのものでした。
最初はm&m’sを使わないかと映画会社からメーカーであるマーズに打診があったところ、その協賛金が20億円もしたので断ったという噂があります。真偽のほどは確かではありませんが、ほとんどの観客が気がつかないほどの「出演」で20億円の「逆ギャラ」は詐欺に近いものがあります。この辺の映画業界の体質については機会を改めてお話しましょう。
アメリカでのチョコレート消費量は圧倒的な規模を誇ります。何と言っても、あのm&m’s1銘柄で、日本の全消費量と同じだけの売り上げを上げると聞いただけで、その大きさが分かろうというものです。
ダイエットの波に押されがちとはいえ、朝食にm&m’sを1袋一気に口に流し込み、ミルクをガバガバ飲むアメリカ人も珍しくはありません。
実際、私もアメリカの大学時代にコンピュータ工学のレポート作成のために、ほとんど端末の前に座りっきり。寮に戻る時間も惜しくて1日2時間の睡眠で1カ月頑張ったときにも、自販機でいつでも買えるので重宝だからといって、食事代わりにスニッカーズを何本も食べた経験があります。欠点と言えば、一辺に3本以上食べると気持ちが悪くなることくらいでしょうか(笑)
さて、今回のテーマはチョコレートです。
日本ではアメリカに比べて消費量が少ないとはいえ、私たち日本人にも実になじみが深い食べものです。ある意味、アフリカが原産地のもので最も日本人が親しんでいるものがチョコレートと動物のキリンなのかも知れません。
一般的にチョコレートは大人の食べ物ではありません。ましてや、男性が好む商品でもありません。30代男性が中心のこのメールマガジンではちょっとハンデのあるテーマです。でも、子どもの頃、300円と上限が決められている遠足のおやつに何を選ぼうかと、嬉しい悩みがあったことを思い出しながら読んでください。
女性は若い
「女・こども」ということばが聞かれなくなって久しい今日このごろですが、まだそんなイメージが残っている商品や業界がいくつかあります。
15年ほど前、現在の日本たばこの新製品が女性向けであったことが、大手印刷会社の反喫煙社員の内部告発で事前に発覚し、「女性の喫煙と健康を守る会」が各マスコミに告発文を出してちょっとした騒ぎになったことがありました。
「女性に喫煙を勧めるとは何だ」という論調もありましたが、いくつものマスコミが
と皮肉たっぷりのコメントをしていたのが印象的でした。
現代では女性を未成年者と同列に扱うなどという命知らずな人間もいませんし、実際、男性以上に大人の女性も多くなっています。
もとい。元々、女性は男性より大人です。
それでも、イメージというのは保守的で、事実の変化に大きく遅れを取っているものです。
その代表がチョコレート。
実際、チョコレートのお得意さんは小学生以下の子どもと女性です。
中でも女子高生とOLは2大顧客。「チョコレート好き=女・こども」は事実でもあります。
生理学的や統計的な理由もあります。
味覚の発達は次のように進みます。発達の初期段階では甘味が、成熟段階では苦みが好まれるのです。
これをうまく応用したものに、アメリカでのペプシコーラがあります。
ご存じの通り、アメリカでのコーラのトップはコカコーラではなくペプシです。10年前は日本と同じくペプシは遠く離れた第2位でした。それがトップになったのは「ペプシジェネレーション・キャンペーン」と名付けられた一連の若者向けのマーケティング攻勢です。
コカコーラは中年の飲み物、ペプシは若者のものというイメージを植え付けるために、いかにコカコーラが古くさい飲み物なのかを様々な広告で生活者の頭にたたき込みました。
中でも有名なのがコカコーラを小バカにした一連のパロディ広告です。
ペプシコーラを飲みながら参加していた大学の実習の教授と生徒達が、化石の中にコカコーラの空き缶を発見し、「これは一体何だろう」と不思議がる広告等は日本でもオンエアされたのでご存じの方も多いでしょう。マイケルジャクソンを初めて広告に引っ張り出したのもペプシです。
ペプシがコークに勝ったのはこれだけのせいではありません。コークが味を変えた「ニューコーク」を出し、従来の味を発売中止にしたことに怒ったアメリカ人たちがコークに対して反感を持ったことも一因です。
もうひとつ大事なことがあります。
ペプシは商品も変更しました。若者をターゲットにしたのに伴って、内容量をコークより多くし、甘味を強くしたのです。若い人たちは飲む量も多く、甘味を好むからです。この手法はヤクルトの量を多くしたビックル、オロナミンCの量を多くしたデカビタCでサントリーが応用し、日本でも成功しています。
日本ではペプシはうまく行っていませんが、この話はまた別の機会に。
話が脱線しました。若い人たち(こども)は甘いものが好きという話でした。
そうそう、だから「甘いもの好き=こども」のイメージは間違っていないのです。
女性にしても生理学的な傍証はありませんが、甘いもの好きの女性と嫌いな女性は同数ではないことがわかっています。ある調査では甘いもの嫌いの女性は20%の一方、男性は50%と明確に性差があります。従って、一般にそういったイメージが形成されても不思議ではありません。
別な見方をすれば、女性のほうが男性より若いのでしょう。
もちろん、女性でも甘いもの嫌い、男性でも甘いもの好きがいるのも事実です。
甘いもの嫌いの女性、甘いもの好きの男性にとっては迷惑な話ですが、世間のイメージとはそんなものです。めくじらを立てたところでどうにもなりません。
かくいう私も甘いものには目がないクチです。
高校時代はおしるこやぜんざいを食べたくても一人では恥ずかしいので、同級生の女の子に頼み込んで一緒に行ってもらったものです。「女の腐ったの」と言われるのがイヤだった。30年前はそんな時代でもありました。
今では堂々と甘いものを食べています。ただ、やはり男性には甘いもの好きが少ないので、「うまいチーズケーキの店」や「スフレの絶品な店」の話が盛り上がるのは女性と、という機会が多くなります。
ところで、先日知恵市場のオフに参加したときに読者の方々と喫茶店で雑談をしたのですが、読者のひでおさんや今泉さんがパフェをオーダーしたときは、さすがに同士を見つけたようで嬉しかったものでした。皮肉なことに、オフではジュースを飲む暇さえなく参加者と話をしていたので、1日20杯を飲むほど好きなコーヒーを優先せざるをえませんでしたが(笑)
もう一度、買いたくても買えない商品
先日、女子大生と社会人バイトの女性同士の話を聞いていたときでした。
2人は甘いものは大好きですが、ケーキや高級チョコレートが中心。板チョコなどはたまに食べる程度です。
「う~ん。最近、おいしかったのは…えっと…あれ?なんていったかなぁ」
「なになに?どんなの?きのことかの形をしたヤツ?それとも、カカオパウダーとか入ってるやつ?」
「えっと、そんなんじゃなくて…茶色くてコクのあるヤツ」
「茶色いのってたくさんあんじゃん。どれ?どこが作ってんの?」
「わかんないんだけど…でもおいしかったよ」
「え~、それじゃわかんないじゃん」
「あっ、それじゃないけど、小枝のカカオのやつ『も』おいしかったよ」
私は吹き出してしまいました。
そこで、「甘いもの食べたい」というユキちゃんには、ゆりちゃんのオススメの話から思いつきそうなものを近くのコンビニで買うように指示しました。一方、思い出せないゆりちゃんには、コンビニでおすすめのハズのものを買ってくるように伝えました。
自信がない場合は4つまで「それらしきもの」を買っても良いとの共通の条件です。
もちろん、一緒に買いに行ってはいけません。別行動です。
しばらくして、思い出せないゆりちゃんがまず帰ってきました。
「実物を見てもどれだか分からなくなってしまったんです。食べてみないとどれだったか・・」
買ってきたのは次の4品。
ポルテ | Melty Kiss |
Fondant Chocolat | Roco |
間もなく「甘いものほしい」ユキちゃんが戻ってきました。
「ゆりちゃんの説明じゃあ、どれがどれだか全然わかんないんです。だから、適当に買ってきました」
買ってきたのは次の4品。
ショコラの石畳 | Roco |
Monew | シェフこだわりの生チョコレート |
とりあえず、2人が重なったのが Roco。
「食べたら分かるかも知れない」というゆりちゃんに試食してもらいました。
結果は不正解。
「あれ?おいしいけど、これじゃないです」と自信たっぷりのご様子。
残りの3品も食べてもらいました。
しかし、意外なことにどれもこれもピンと来ていない様子です。
「それでは、残りのうちのひとつがお勧めのものだったのかな?」
「それが森さん、どれが正解というのかどうかも分からないんです。正解の気もするし、そうでない気もする。あのときはすごくおいしいと思ったのですけど、今食べてみるとどちらも『そこそこおいしい』ので、これだった、と言えないのです」
「そんなはずはないと思います。先週、食べたばかりでしたから」
「でも、名前もデザインも味もはっきりと思い出せない、だよね?」
「はい。私、バカなのかなぁ…」
確かにどれがどれだか解らない
ゆりちゃんはガッカリ。
かわいそうなので、テストをしてみました。
「じゃあ、こういうテストをしてみようか。ここにあなたたちが買ってきたチョコレートと僕が持っていたチョコレートのコピー (うたい文句) を並べるから、それぞれどの銘柄がどのコピーかを当ててごらん?」
「ええ~!?森さん、それは意地悪ですよ。解る訳ないじゃないですか」
「うーん、『チョコレート焼けました』って言ってるから、これは『こんがりショコラ』というのは解るけど…後は『冬の淡雪』って言ってるから、これは『雪のような口どけ』か『ふわーっと感じる雪の口どけ』かのどちらかだとは思います。でもそれ以外は解りません」
読者のみなさんも挑戦してみます?
【コピー – 表にコピーがないものは裏面のものを掲載しています】 |
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期間限定 【裏面】生クリームをたっぷり使った生チョコレート。コクのあるなめらかな口あたり 1粒の満足… |
素材と製法にこだわりました。生クリームを使用したやさしい口どけ |
しなやかな食べごこち たっぷりとろける味わい。 |
シェフの手仕事 ココア仕立てのスリバードアーモンド&クッキーチョコレート |
生チョコ仕立て |
期間限定 ふんわりなめらか 軽い口どけ <北海道産ミルク使用> |
雪のような口どけ |
ふわーっと感じる雪の口どけ |
さくさくなのにクリーミー |
生チョコを練り込んだ●●●(銘柄名)。初めてのしっとり感 |
チョコレート焼けました しかくいチョコレートにクッキー生地をとろーりのせてオーブンへ…チョコレートなのに外はさくさくでチョコレートだから中はしっとり~ 新食感チョコレートできました |
さらに生地がしっとり クリームがあっさり かわいいチョコケーキ |
銘柄名 | |
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Melty Kiss (メルティーキッス) | Fondant Chocolat (フォンダンショコラ) |
シェフこだわりの生チョコレート | Fee Neige (フェネージュ) |
Monew (モニュ) | 銀座チョコレート 生チョコブラウニイ |
Roco (ロコ) | ポルテ |
ショコラの石畳 | 冬の淡雪 |
こんがりショコラ | 小さなショコラ |
また、デザインも良く似通っています。
じっくり見れば違いはわかりますが、コンビニやスーパーで並んでいたら思い出せないくらい。デザイン業界の花形といわれるたばこと比較すると、いかに覚えにくいデザインかがはっきりします。
逆に、小枝はシリーズものなのにデザインが全然違います。ポッキーとの違いを見て下さい。【画像はこちら】
ネーミングだって、「覚えてくれるな」といわんばかりの下を噛みそうな名前か、商品が特定できない「一般名称」かのどちらかです。
「そうか、わかる訳はないんだ」
とちょっとゆりちゃんも元気が出たようです。彼女には自宅に帰ってもう一度思い出してもらうように頼んでおきました。
私はニコニコしていました。
そうなることが分かっていたからです。
チョコレートのマーケティングは「刹那的」
チョコレートはインスタントラーメンと同じように、上位のブランドの順位が入れ替わることがないことで有名な商品分野でもあります。ちょっと見ただけでも「冬季限定」やら、春と秋の新製品ラッシュ時に、何十もの新製品が発表されるのにも関わらず新製品さんは全滅です。
「センミツ」ということばがあります。「1,000の新製品で3つ成功したら合格」という意味です。サントリー鳥居会長が「やってみなはれ」と共に良く使っていたもので、「ちょっとした失敗は気にするな、のびのびとやれ」という意味です。
でも、毎年100種類のチョコレートの新製品が出るとすると(最近はもっと少ないですが)、10年間で3個、つまり3年に1回はヒット商品が出なければいけません。でも、チョコレートは「センミツ」にすらなっていないのです。
「いや、ガルボは売れたんじゃないかな」「ブルボンのプチシリーズはヒットじゃないのか」などと言われそうですから、ここでヒット商品の定義をきちんとお話しましょう。
私の言うヒット商品とは、ある商品分野(チョコレートで言えば、粒チョコ分野、板チョコ分野などと理解して頂いて結構です)で、市場シェアを6.8%以上獲得する商品のことを言います。
お菓子のマーケティングを私は「荒れたマーケティング」と呼んでいます。
「刹那的マーケティング」と言うこともあります。
一時期、行われていたのが、「ひと巻き幾ら」の新製品投入でした。
つまり、お菓子を扱う約70万件の小売店に1回だけさばく量だけを生産し、ちょっとだけアイドルを使った安上がりのテレビ広告を流します。
それでおしまい。
小売店から再注文があっても売る在庫がないのですから、商品が市場に流れようがない。そうこうしているうちに、生活者もあきらめてそのお菓子を買わなくなる。
だから、きちんとした新製品などは開発できませんし、するつもりもありません。手間をかけていたのでは利益が出ないからです。
パッケージデザインを変えただけや、チョコレートの形をきのこからたけのこに変えただけのものを新製品として売るわけです。新規の投資は数十万円のデザイン費と印刷代金、そして、箱の形を変える機械の改修費数千万円だけ。
それで、ひと巻き5億円ほど売ればとりあえずのヒットとして認められるのです。
ちなみに、その前は15億円でヒットと言われていたのが10億円でヒット、最後に5億円でヒットとどんどん基準が下がっていったのです。
目指すべき合格点を下げた志の低い企業は(人間も同じですが)能力が下がっていくだけです。
当のお菓子業界は反論するでしょう。
私の後輩はこう代弁してきました。
ポケモンのシールをおまけにつけるだけで、数倍もの売り上げが稼げてしまう。
だったら、手間をかけないで売れるもの作るのは企業として当然のことでしょう。
第一、技術者がやる気をなくしてしまうのも、分かりますよ」
本当にそうでしょうか。
のどあめのCFソングではありませんが、「(客を)なめたらあかん」のです。
事実、荒れたマーケティングをすればするほど、ヒット商品の基準が下がっている。つまり、生活者が買わなくなってきているのです。「もうだまされないぞ」という声が聞こえてきそうです。
また、女子高生達は確かに新製品を学校での話題として利用するために、新しいものこぞって買います。彼女たちのグループでは回り持ちでお菓子を買って、分け合う習慣が根付いています。お菓子は彼女たちにとっては「食べもの」ではすでになく、プリクラや携帯電話と同じような「コミュニケーションの道具」と化しています。
しかし、一方で、「伝統的なお菓子の銘柄」もきちんと買っています。
ポッキー、小枝、きのこの山、コアラのマーチ等々、定番のお菓子も食べるのです。
つまり「女子高生だから」新しいものしか売れない、のではありません。
売れる商品を「育てていない」だけなのです。
長い間広告を打つことですか?
だったら、m&m’sやスニッカーズは年間20億円もの広告費をかけたのですが、一時期はポッキーに次ぐ第2位の銘柄になったものの、今はまったく売れていません。
やはり、お菓子というのは飽きが来る商品なので、『長い間売れるもの』ではないのではないでしょうか」
後輩もしつこいです(笑)
人の話を聞かない悪いくせはまだ直っていません。
ポッキーが長い間売れていることを横において、失敗したケースだけをあげてポッキーの事実を否定する論理展開で私を論破しようなんざ、10年は早い(笑)
ここでは細かい話はしませんが、m&m’sやスニッカーズのマーズ・グループという会社は元々新しい市場で商品を売るのが下手なだけです。m&m’sは本家アメリカでこそロングセラーですが、アメリカ以外で成功した国は日本を含めて1つもありません。
よくあるパターンです。成功体験が長い間続いたので、トップ企業のマーケティング手法しか知らない。新しい国や市場に参入するには、弱者のマーケティングを採用しなければならないのに、強者のマーケティングのままやってしまう。
「おくちでとろけて、手に溶けない(It melts in your mouth, not in your hands)」
これでは、日本で売れるわけがありませんもの。
ちょっと意地悪だったかしら
本当はここまでいうのも酷ではあります。
お菓子業界はここ10年近く、その態度を改め「ようと」しているのが見えるからです。
「荒れたマーケティング」をしていた頃は、春夏のシーズンに各社20銘柄もの新製品を出していましたが、ここのところ、5~7品目に押さえています。しかも、すべて「新製品」ではなく、半分は「旧製品」の改良版や姉妹品です。
今までのような「産みっぱなし」ではなく、ポッキーや小枝やチョコボール等の銘柄を育てようとしているのです。
それでもまだまだ甘いのがチョコレート業界です。
彼らが力を入れているのは「従来の確立された銘柄だけ」です。
新製品については取り組み方が足りません。
その典型の一つが「売れてから広告を作る」体質です。
「ひと巻き幾ら」の商売をしていた頃とまったく逆のアプローチです。
まず商品を作って売ってみる。そして、ある程度売れるのが分かってから、おもむろに広告を作り出すという恐る恐るのマーケティングです。
最近、「大人向けのチョコレート」としてポリフェノールを使ったチョコレートが各社から相次いで発売されましたが、これも典型的なやり方の例です。
見込みが立ってから投資をするのは至極当然だと思うのですが」
私の後輩のしつこさは立派です。見込みがある。
投資がタイトな中小企業ならいざしらず、日本の主要チョコレート・メーカーはまがりなりにも1,000億円を越える企業群です。そんな議論は通用しません。
理由は2つです。
きちんと広告さえすれば売れるはずの商品を、むざむざ殺してしまう可能性があるからです。
もうひとつは、需要予測もできないような商品開発をすること自体に問題があるからです。ちゃんとしたアプローチの商品開発をしていれば、自信を持って広告の可否を判断することができるはずです。一通りの調査をしたって、きちんと検討したり分析がしっかりしていなければ、やるだけ無駄です。
もちろん、売れるかどうかは最終的には売ってみないと分からないのも現実です。
でも、本来の商品開発とはその精度を高めるためのものですし、場合によってはテストマーケティングという手法だってあります。
「そんな悠長なことをしていたら、競合に真似された商品を先に全国で売られてしまう」
がテストマーケティング反対論者の代表的な意見ですが、そんな簡単に真似されてしまうような商品しか開発できない企業開発力の方が問題です。
本来の商品開発は市場の受容性とともに、競合相手にどれだけ真似される期間が必要かを考え、簡単に真似させるようなものなら市場に出さないというほどの検討をする必要もあります。
実際、商品を育てるのが上手なポカリスエットなどの大塚製薬やペディグリーチャムやカルカンなどのマスターフーズは、簡単にコピーできそうな商品は世に送るのを見合わせることでも有名です。
続けて買ってはいけない、と突き放す業界
あれから1週間後です。
「え?だって、自分が気に入ったチョコレートくらいは覚えていますよ。やっぱりゆりちゃんはバカなんじゃないですか?」
ゆりちゃんと仲が良いからとはいうものの、口が悪いユキちゃんです。
そこで、同じ実験をしてもらいました。
最近、気に入ったチョコレートを3つ上げてもらい、それをコンビニで買ってきてもらいます。自己申告による正解は2つ。
「あれぇ?全部当たると思ったんだけど、売り場に行ったら分からなくなってしまいました」
とは彼女の弁。
続いて、もうひとつのゲームを彼女にやってもらいます。
「思い浮かべる清涼飲料水を矢継ぎ早に上げてもらいます。ちょっとでも迷ったらそこでストップ。さて、いくつ上げられるでしょう」
これが終わったら、インスタントラーメン、化粧品、シャンプー・リンス、歯磨き等をテーマにします。
彼女の成績は次のとおりです。平均5.0銘柄。
清涼飲料水 | 6銘柄 | ラーメン | 4銘柄 |
---|---|---|---|
化粧品 | 7銘柄 | シャンプー | 5銘柄 |
歯磨き | 3銘柄 |
「おかしいなぁ、もっと答えられると思ったんですけど」
彼女も自信がなくなってしまったようです。
生活者の記憶はよほど自分が詳しい業界でなければ、こんなものです。
大体5~6銘柄が平均的なのです。
唯一の例外はクルマとたばこです。
これらの商品分野では10銘柄を越えたあたりが平均値です。
マーケティングではコンペティティブ・セットとかイヴォークト・セットという小難しい名前が付いていますが、私は単に「買い物リスト」と呼んでいます。
新参者である新製品はどうやって、この中に入り込むかを真剣に考えなければ、明日はありません。
買い物リストに入らない商品は、衝動買いに頼らざるを得ません。
コンビニのレジの横に置いてあったので、思わず買ってしまう、というアレです。
しかも、チョコレートのように、「おいしかったからもう一度食べたい」と思ってもらっても、それを見つけてくれる工夫すらできていない商品が売れるほど甘くはありません。
先週、ゆりちゃんが小枝のおいしい姉妹品なら覚えていたのに、最近の商品の「もっとおいしいもの」が思い出せないのはそのためです。彼女の中には小枝は商品名として覚えられています。だから、多少おいしさが劣っても2回目、3回目を買ってくれる可能性があります。でも、デザインを見ても思い出せないような商品なら、買いようもありません。商品自ら「継続して買ってはいけない」と拒否しているようなものです。
企業の中では最近「ブランド戦略」というテーマが流行して久しいのですが、そんな小理屈の前にやらなければならないことができていない。そのひとつがチョコレートなのでした。
そこに、ゆりちゃんが出社してきました。元気がありません。
「ええええ?だって、それって最初に『違う』と自信を持って落選にしたやつじゃない?」
「はい。そうなんです。だから、どうしても信じられなかったんですが、自宅のゴミ箱をあさって箱を見つけたので、間違いないと思います」
お後がよろしいようで。テケテンテンテン。