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【DCCM事例3】DCCMから見たマーケティング失敗例

コカコーラ・ケフラン

コカ・コーラの清涼飲料水、「ケフラン」である。読者で記憶に残っている人はいるだろうか?

「ケフラン」のセールスポイントは、旧ソ連に伝わる健康食品「ケフラン」が入っていることだった。しかし、それをほとんど説明しなかった。CMでは「ソ連の自然科学飲料ケフラン」「私の名前はケフラン」とうたいあげたが、「ケフラン」がはたして何を意味するのか、生活者にはまったく伝わらなかった。「ケフラン」の説明はあえてしないでCFを見る人に「これ、何だろう?」と思わせるのが狙いだったらしいが、再三述べてきたように、今の生活者はそんなに甘くない。

「これ、何だろう?」という疑問が、「だったらちょっと飲んでみよう」とは結びつかない。ムダな情報は、その壕で排除してしまい、知ろうという労力はかけてくれないのである。ケフランの失敗要因は、規格が意味不明だったために、「ベネフィット」も「エッセンス」もすべてがぼやけてしまったことにある。

余談だが、実はコカ・コーラは93年発売の「タブ・クリア」においても、同じミスを犯している。「タブ・クリア」は、透明なコーラである。アメリカではコーラ飲料は健湊的ではないというイメージが蔓延し、ハンバーガーとコーラの組み合わせはジャンク(くず)フードの代表といわれるほど悪評が高かった。そこであの褐色の液体を無色透明にして、ヘルシー感を高めたのである。

日本ではそれを「タブ・クリア」と名付けて発売。ところがコカ・コーラは、ヘルシー感を広告で説明しようとはしなかった。「規格」も「ベネフィット」も説明せずに、ただ発売前の広告で「とんでもない飲料が発売される」と俵孝太郎に言わせた。そして発売後は、今度は坊さんに「飲めばわかる」と語らせた。要するに「何だか分からない」広告を露出して、生活者を引っかけようとしたのである。

さすがにコカ・コーラが誇る自販機網のおかげで、「タブ・クリア」の立ち上がりは順調だった。しかし1カ月足らずで、潮が引くように生活者が離れてしまった。「タブ・クリア」の失敗は、「チェリーコーク」、「コカコーラ・ライト」「ケフラン」の「コカ・コーラ三大失策」の歴史に、新たな1ページを加えてしまったのである。

私は、「タブ・クリア」が「規格」や「ベネフィット」を明確にうたい上げたとしても、成功したとは思わない。ヘルシーな飲料といえばミネラル・ウォーターしかないアメリカと異なり、日本には機能性飲料や綜茶、無糖・低糖紅茶、はたまた「カルピス」など、競合がひしめき合っている。ヘルシーさだけを求めるなら無糖飲料を、適度な甘さを求めるなら「カルピスウォーター」を求めればいいわけで、「タブ・クリア」の占めるポジションなど、どこにもないのである。

おそらくコカ・コーラ側もそれを察知していたのであろう。「差別性」がない場合は、圧倒的なマーケティング投資で乗り切るしかない。圧倒的な流通力行使と大量のCM露出は、不利な状況をカバーするための手段だったというのが私の推測だ。しかし、いかんせん商品の実力がなさ過ぎた。あるいは生活者を甘く見過ぎていたというべきか、マーケティングの教科書に失敗例の典型と紹介されてもおかしくないほどの、手痛いしっペ返しをくったのである。

三共製薬・ジゼ

下図を見てほしい。

三共製薬の「ジゼ」は、「乳清マルチ醗酵エキス入りの機能性飲料」として売り出された。
CMでは「美人飲料」「一週間飲み続けてください」と訴えた。しかしそもそも乳清マルチ穀酵エキスとは何か、がハッキリしないし、メーカー側もそれを生活者に伝えようともしなかった。だから、どんな効用があるかもわからない。

「ジゼ」の「ベネフィット」は「キレイになれる」ことだが、「規格」が判然としないので、どこがどうキレイになれるかが明確でない。まさか「ジゼ」を飲んだら、整形したように顔立ちが変わり、「美人になれる」わけでもあるまい。

しかもメーカーが売り焦ったためか、流通に、スーパーやコンビニなどの一般ルートを選んでしまった。この結果、もともと弱かった「説得性」がさらに弱くなってしまったのである。

コーラや缶コーヒーと一緒に売られている商品に「美人になれる」ほどの力があるとは、誰も思わない。「健康になれる」とまでは思わずとも、「不健康にはならない」程度の力はあるというベネフィットがあるポカリスエットや緑茶なら、スーパーやコンビニで買ってもそこそこの効果は期待できる。しかしスーパーやコンビニで売られている飲料で「美人になれる」とまで主張しても、生活者が信じないのは当然だろう。

「ジゼ」に含まれる乳清マルチ醗酵エキスは、肌をキレイにする効果があるという。「美人」という発想はそこから連想されたのだろうが、一般ルートでは具体的な効用まで訴求できない。

「規格」や「ベネフィット」が不明で失墜した「ジゼ」の運命は、流通経路を選択したときから決まっていたといえよう。

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