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【DCCM事例2】DCCMをベースとしたマーケティング戦略

トップの戦略と下位の戦略は違う

以上、家電メーカーを例にとったが、この方法はブランドの評価にも当然応用できる。さて、チェックシートを見ればわかるように、DCCMのすべてにおいてパーフェクトな展開を行っている企業は、皆無に等しい。DCCMのすべてを満たすことは、非常に困難なのである。

加えて、優良下位のブランドにトップと同じ市場戦略をしろといっても、それは不可能だ。

無理を重ねた付け焼き刃の市場戦略を行えば、かえって自分の首を蹄めることになりかねない。
トップにはトップの、下位には下位のやり方があるのである。

トップブランド(企業)の戦略

トップブランド(企業)は、当然のことながら、「市場性」は強い。ただ、主流であるだけに、「差別性」が弱くなりがちである。同時に、生活者に「そのブランドだから」「そのメーカーだから」というイメージがしみついており、その分強力な「説得性」も持ちにくい。

さて、「優位性」はどうか?もし「優位性」が強ければ、トップの地位は、簡単には捕るがない。しかし「優位性」が強くなければ、つまり「優位性」の基本である「品質」が良くなければ、たとえ売上やシェアが上位であっても、潜在的な「不良上位」であるといえる。

優良上位の戦略は、まず「優位性」と「市場性」を確保すべきである。この二点さえ押さえておけば、それほど心配はいらない。生活者に、どんな店でもその商品が置いてあるという安心感をうえつけて、手堅く商品を売り続けるべきだ。ただし、この戦略が通用するのは、業界の中でもトップを占める1ブランド・企業だけである。

優良下位ブランド(企業)の戦略

優良下位ブランド(企業)は、セグメントを精緻に切った場合、一部市場において一位の座をキープしているケースが圧倒的に多い。したがって「市場性」は狭いものの、「差別性」「優位性」ともに強力であり、それゆえ説得性も強いのが特長だ。つまり「市場性」以外は優等生なのである。
代表的な優良下位ブランドとしては「アサヒスーパードライ」、アップルコンピュータの「マッキントッシュ」などが挙げられる。

さて、優良下位企業の戦略は?
下位企業は上位企業に比べ、組織力が劣る。たとえば上位企業の技術設計部が、1,000人の人員を抱え、一方、下位企業は400人に過ぎなかったとする。仮に上位企業が10個の製品をつくるとすれば、1個の製品につき100人のチームで開発できる。一方、下位企業は1個につき40人しか投入できない。これでは勝ち目がないので、あえて3個の商品しかつくらないという戦略をとるべきだ。そして、資本を一点に集中して使うのである。つまり、第一の戦略は、開発する商品を厳選して、市場を絞り込むことだ。

次に、トップ企業の圧倒的な「市場性」に匹敵できる付加価値を、商品につけねばならない。
つまり、「市場性」以外のすべての要素を充実させるのである。
ゆえに第二の戦略は、「優位性」、「差別整、「説得性」をより一層高めることだ。

不良下位ブランド(企業)の戦略

DCCMのすべての要素を外しているのが最低の下位ブランド(企業)だが、さすがにそのような事例はめったに見当たらない。日本で最も多く見られるのが「市場性」は◎だが、「差別性」、「優位性」、「説得性」はすべて×というケースである。つまり「不良下位」とは、市場の大きさに目がくらみ、トップブランド、あるいはトップ企業の真似をして、結局下位のままで終わっているという商品や企業を指すのである。

不良下位企業としては三洋電機や、「レガシィ」に力を入れる前の富士重工業などが挙げられる。要するに、「ミニ大企業」である。では、不良下位ブランド・企業はどうすれば挽回できるのかを説明しよう。

不良下位ブランド(企業)の戦略は、ことごとく不発に終わるケースが多い。「差別性」がないから人の注意を引かない。「優位性」がないから、一度商品を買ってくれた生活者も、すぐに離れてしまう。「説得性」がないから良い商品を発売しても、生活者の「購入しよう」という気持ちを誘発しない。こうした悪循環が重なり、市場で低迷し続ける。しかし実は、業界のなかで圧倒的多数を占めるのが不良下位ブランド(企業)である。では、不良下位ブランド(企業)は、どんな戦略をとるべきか?

第一に、「優位性」を確保すべきだ。
「優位性」がなければ、生活者の信用、共感は得られない。ただし「差別性」と「優位性」を混同してはならない。前述したとおり、奇をてらった目新しいだけの商品が人気を集めた時代は終わったのである。

第二に、「説得性」を確立すべきだ。
説得力がなければ、理解も好意も得られない。せっかく良い商品を出しても、「どうせ、あそこの会社が出している製品だから:…・」と生活者はソッポを向いてしまう。ゆえに製品だけでなく広告においても、企業の優れたポイントを訴求して、「説得性」を上げねばならない。

説得力を上げるために、実に巧妙な戦略をとってきたのがシャープだ。多くの広告で、「目のつけどころがシャープでしょ」というコピーを掲載して注目を集めてきた。広告コピーにたがわず、実際に製品も斬新だ。NEC、富士通、東芝などの大手メーカーに先駆けて業界で初めてパーソナルFAXを開発したのはシャープだし、液晶テレビにしても、実に効率良く開発した。液晶テレビの全機種に、高画質のアクティブ型TFT方式のLCDを導入して高級化を打ち出し、主力機種の画面を携帯用としては大きくして、他社と競合しないようにした結果、大幅にシェアを伸ばしたのである。さらにお得意の電子手帳市場では、コンパクトな「PA−Xl」を発表して、女性ユーザーを引きつけた。また93年に投入した「ザウルス」は、3カ月で売上10万台を超す大ヒットとなったし、「液晶ビューカム」にいたっては、今さら説明する必要もないほどの成功となった。

ここまでなら、差別性(ユニークさ)と優位性(使い勝手、高級感)のある商品がヒットした、というべきところである。しかし、シャープはこの成功を応用し、企業の説得性に結び付けることに成功したのである。ユニークな商品開発でヒットを連発し、それらの実績を「説得性」の材料にして、「目のつけどころがシャープでしょ」というメッセージで企業イメージを高める。そしてその企業イメージを新しいユニークな商品に還元して、さらにイメージを高めるという非の打ちどころのないサイクルを作りだしてきたのである。「シャープ←→ユニークで質が高く、しかも手の届きやすい新製品を出す会社」という図式を形成して、記号性と意味性を着実にリンクさせているのである。

さて、DCCMはプロダクト・ライフサイクルにも関わってくる。

たとえば新製品の導入期などの、攻撃すべきときにはどうすべきか?

下図を見てほしい。攻撃時には、「差別性」、「優位性」、「説得性」を高めるよう、精力を傾けるべきだ。攻撃時には市場を限定した方が、自社資源を集中的に投入しやすくなる。それが結果的に、市場パワーを高めることになるのだから、攻撃時には「市場性」はむやみに高めない方がいい。

一方、商品の拡大期(成熟期)、あるいは守りの体制に入ったときには、「差別性」、「説得性」に多少問題があっても、「優位性」のレベルをキープすべきだ。守りの体制に入ったときには、「優位性」を維持しながら「市場性」を拡大する方が、マーケティング資源効率が高くなるのである。

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